✿本編:【記憶の扉】
✿:~彼side~
彼:あの日は、〖大切な誰か〗と信号待ちをしていた。
彼:歩道の信号が青になり、念の為左右を確認してから〖大切な誰か〗と、歩き出した。
彼:真ん中辺りに来た時に、ブォーーーーン!!とバイクの音が近づいてきて、俺は咄嗟に、その〖大切な誰か〗守るために突き飛ばした。
彼:ドンっと鈍い音がして、俺の体が空を飛んだ。
彼:「あー。俺、死ぬのかな。。。まだやり残した事あんのに。。。。」
彼:そこから先の記憶が俺にはない。
✿:間
❀:~月灯(あかり)side~
月灯(あかり):○○くんが私に突っ込んでくるバイクから守る為に、突き飛ばしたあの日から。。
月灯(あかり):私の見る景色の色が消えてしまった。。
月灯(あかり):病院のベッドに、眠っている○○くんの傍にある椅子に座り、手を握る毎日。
月灯(あかり):『○○くん、おはよう。今日は暖かいんだよ。あの日も今日みたいに暖かかったよね。。。。(泣きそうになりながら)
月灯(あかり):ねぇ。あの日。。○○くんがバイクに跳ねられてから私。。怖かった。。。一人になるんじゃないかって。。。
月灯(あかり):(目に涙を溜めながら)まだ、○○くんに報告出来てないことあるんだよ? お医者さんは、意識が戻る為にも眠ってる○○くんに話かけてあげてって言ってたけど。。。もう、寂しすぎて。辛くて。。。どうしたらいいか。。。分からないよ。。。』
✿:間
✿:~彼side~
彼:しばらく経つと、真っ暗な空間にポツンっと俺は立っていた。
彼:そういえば、俺って。。。。誰、なんだ?
彼:自分の名前を思い出そうとしても、頭に霧がかかっているせいか激しい頭痛に襲われた。
彼:真っ暗な空間に立っていても、意味ないと思った俺は、入口も出口もなさそうなこの空間を歩いていく。
✿:間
彼:どのくらい歩いたのだろうか。。。
彼:どれだけ歩いても、この暗闇から出られずに彷徨ってばかりいる。
彼:行き先も分からず立ち尽くしている俺の周りに突然声が聞こえてきた。
月灯(あかり):(『(目に涙を溜めながら)まだ、。。。。に。。。。ないことある。。。。? お医者さんは、。。。。が戻る為にも。。。。。。に話かけて。。。。。言ってたけど。。。もう、。。。。。。。辛くて。。。どうしたらいいか。。。分からないよ。。。』)
彼:とても悲しげな声だった。
彼:何て言っているかは、分からなかった。
彼:ただ、俺は、その声の主(ぬし)に問いかけてみた。
彼:「君は、誰なんだ? 君は俺の事を知っている人なのか?俺は一体誰なんだ、教えてくれ!!」
✿:間
❀:~月灯(あかり)side~
月灯(あかり):私が寂しくて辛くて、涙を拭っている時に、○○くんの口が動き出した。
月灯(あかり):私は彼が何を伝えたいのかと知りたくて口の傍に耳を近づけて聞いた。
彼:「(小さい声で切羽詰まった感じで)君は、誰なんだ? 君は俺の事を知っている人なのか?俺は一体誰なんだ、教えてくれ!!」
月灯(あかり):え。。。。記憶喪失。。。嘘でしょ。。。嘘だと言って。。。
月灯(あかり):彼からの言葉を聞いて私は涙が止まらなくなってしまった。主治医を呼ぶためにナースコールを押して、今起こった事を伝えると、先生が検査を始める為に彼のベッドを移動させて行った。
月灯(あかり):しばらくすると先生と彼のベッドが戻ってきて、先生から一言。。。。
先生:「脳に異常は見られてませんが、事故の時に頭を強く打っていたので一時的に記憶が抜けているのかもしれません。。今は、○○さんが目覚めることを信じて、根気よく待ちましょう。」
月灯(あかり):先生の言葉を聞いて目の前が真っ暗になってしまった。。
月灯(あかり):(お願い。。。目を。。。覚まして。。。。)
✿:間
❀:~彼side~
彼:俺が問いかけると、声の主(ぬし)は泣きじゃくってしまったのが何となくわかった。
彼:何か変な事を聞いてしまったのだろうか。。。。
彼:色々と考え込んでいたら、真っ暗な空間が白く染まっていた。
彼:黒って白になったっけ?と混乱はしたが、俺のやるべき事は、このよく分からない空間から抜け出すこと。
彼:後、さっきの声の主(ぬし)と自分が誰だったのかを思い出すこと。。。
彼:空間が黒から白に変わったのもきっと何か原因があるんじゃないか。。。?
彼:そう思ったら、体が自然とこの空間から出たい!と、どこに出口があるのかも分からないのに、俺は走り出していた。
彼:ただ、無我夢中でひたすら走っていく。
✿:少しの間
彼:あの声の主(ぬし)が誰なのか?
✿:間
彼:俺は一体誰なのか?
✿:間
彼:思い出すんだ、何がなんでも思い出すんだ!!
彼:そう心に強く思った時、目の前に一つの扉が現れた。
彼:俺は正直戸惑った。
彼:そらそうだ、今までどこを探しても何も見つからずだったのに急に扉が目の前に現れたんだから。。。
彼:だが、この扉を開けた先は出口なのだろうか?
彼:それとも、別の空間なのだろうか?
彼:疑心暗鬼になりながらも、一つ息をつき覚悟を決めて迷うのを止めて扉に手を伸ばし、ドアを開けた。
✿:少しの間
彼:ドアを開けた先には、絶対に忘れる事の出来ない人達が赤ん坊を抱っこして、幸せそうに笑っていた。
彼:「あ。。。。母。。。さん。。。と。。。父さん。。。と。。。俺?」
彼:母さんと父さんが「○○」と赤ん坊の俺に向かって何度も声をかけていた。
彼:そうだ。○○。。俺の名前は、○○。。。
✿:間
彼:どうして、思い出せなかったんだろう?
彼:自分の名前がわかった途端、頭の中の霧が少しだけ薄れた気がした。
❀:~月灯(あかり)side~
月灯(あかり):○○くんが記憶喪失になった日から、1ヶ月が経過した。
月灯(あかり):いつ目を覚ましてくれるのかな?
月灯(あかり):いつ私の名前を呼んでくれるのかな?
月灯(あかり):いつ声を聞かせてくれるのかな?
月灯(あかり):1日。1日。がすぎてく度に、私は不安に押しつぶされそうになっていた。
月灯(あかり):『ねぇ、○○くん。寝すぎだよ。もう1ヶ月経っちゃったよ。。聞こえてると信じて、毎日お見舞いにきては、○○くんとの思い出を話してる。。。。。起きてよ。。。』
✿:~彼side~
彼:母さんと父さんの姿の先にも扉があった。
彼:俺は迷うこと無く、ドアを開けて次の空間に走り出していく。
彼:扉を開けた先には、見覚えのある景色が広がっていた。
彼:その景色一つ、一つに色がついており、思い出す度に光の粒子になって俺の中に入ってくる。
彼:俺の中に欠けていた欠片が、まるでパズルのピースの様にカチッ、カチッと嵌(はま)っていく。
彼:頭の中の霧が、どんどん消えていくのを感じ、後もう少しで完全に思い出せると思った。
✿:間
彼:目の前には、光り輝く扉があった。
彼:俺は直感でコレが最後の扉だと理解した。
✿:間
彼:一つ深呼吸をした俺は、思いっきりそのドアを開ける。
彼:最初の白い空間で聞こえた声の主(ぬし)は俺の隣で、笑ったり、怒ったり、泣いたり、時にははにかんだり、恥ずかしがったりと表情がコロコロと変わっていた。。
彼:「月灯(あかり)。。。?」
彼:この景色の中での俺が、声の主(ぬし)に対してそう呼んでいた。
彼:月灯(あかり)。。。。月灯(あかり)。。。
彼:何故だろう、彼女の名前を口ずさむ度に心が満たされていく。。。
✿:間
彼:失ってしまった最後のピースがカチッと大きな音を立てて嵌(はま)り、俺は光に包まれ、眩しくて目をぎゅっと閉じた。
✿❀:~二人side~
月灯(あかり):彼の指がぴくっと動いたのを見過ごさなかった私は、必死に○○くんに呼びかけた。
月灯(あかり):『○○くん、○○くん!』
彼:光が消えて、忘れてはいけなかった愛おしい彼女の月灯(あかり)の俺を呼ぶ声で、目をうっすらとあけ彼女の方に目線を写す。
月灯(あかり):『(涙目で)○○くん、よかった、良かったぁー。。。』
彼:涙をポロポロと流す月灯(あかり)の涙を拭ってあげたくて、手に力を入れてゆっくりと月灯(あかり)の頬に俺は手を持っていき触れる。
彼:月灯(あかり)も、俺の手に自分の手を重ねて話し出した。
月灯(あかり):『(泣きそうになりながら)○○くんが、救急車で運ばれたあの日。
月灯(あかり):歩道を歩いて渡ってる最中に、信号無視のバイクが突っ込んできて。。
月灯(あかり):○○くんが助けてくれなかったら、私と。。。
月灯(あかり):○○くんとの赤ちゃん、死んじゃってたかもしれなかったんだって。。。
月灯(あかり):○○くん、助けてくれてありがとう。。。
月灯(あかり):こんなかっこいいお父さんを持って、私のお腹の中にいる赤ちゃんも喜んでくれるね。。。』
彼:「あか。りのお腹に、俺との赤ちゃんがいるのか?」
月灯(あかり):『そう、そうなんだよ。。○○くんが1ヶ月もお寝坊さんだったから、なかなかいえなかったの。。。』
彼:「そっか。。。目覚めるのが遅れて、月灯(あかり)の事も、自分の名前も忘れててごめんな。。。月灯(あかり)を不安にさせて、すまなかった。。。」
月灯(あかり):『ほんと。。だよ。。○○くんが、記憶喪失になって私、怖かったんだから。。。』
彼:「ほんと、ごめんな。。。月灯(あかり)、ただいま。」
月灯(あかり):『うん。おかえり、○○くん。』
✿:少しの間
月灯(あかり):『あ!先生に知らせて来なきゃ!!』
彼:そういうと月灯(あかり)は、俺の手をそっとベッドに戻しバタバタと急いでお医者様を呼びに言った。
先生:「本当にいつ目をさまされるのかと、毎日心配でした。1ヶ月も眠っていたんですよ? 彼女さんが毎日お見舞いにきて、○○さんに話しかけるのをずっと続けてくれたお陰ですね! 本当に目覚めて良かった、良かった。」
彼:その後、俺を助けるために手を尽くしてくれた主治医の先生からも、良かったと安堵された。
彼:「ご迷惑おかけしてすみませんでした。命を助けて下さりありがとうございました。。」
先生:「いえいえ、それが私どもの仕事であり宿命なので。お礼なら、彼女さんに沢山伝えてあげてください。」
彼:「はい。そうします。」
月灯(あかり):○○くんが身体を起こそうとしてたから、先生と一緒に支えて上げて上体を起こした。
彼:「月灯(あかり)本当にありがとう。最初。俺真っ暗な空間にポツンとたってたんだ。でも、月灯(あかり)の声が聞こえて白い空間に変わって。不思議な体験だったよ。月灯(あかり)のお陰で、俺戻ってこれた。本当にありがとう。これからは、良き父として二人を守って行くからな!」
月灯(あかり):『ふふふ(笑) うん、期待してるね!』
✿:少しの間
彼:あの不思議な景色は、全て、俺の記憶だったんだと。。
彼:今更気づいた。。
彼:いや、あの時は本当に思い出したくて必死だったんだよ。。。
彼:その不思議な体験の話は、俺の胸の中にだけしまって置くことにしよう。。
彼:これ以上、妻である月灯(あかり)を不安にさせない為にも。。。
❀:~終わり~
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